アルコールレトルトメソッド

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ニュース

シリウスタバコにて、アルコール・レトルトキットが製品化されました!説明書を担当したのは本稿を書いたshuzed氏。必要な道具は(アルコール以外は)全て同梱され、アルコールランプ付き/無しのオプションが選べます。購入はこちらで→シリウスタバコ アルコール・レトルトキット (2010.5.16追記)

概要

アルコールレトルトメソッド[Alcohol Retort Method](以降 A/R)はレトルト(蒸留器)とアルコールのコンビネーションによって、パイプ内部のタール蒸着や歓迎できない臭いを強力に除去する手法で、アメリカのパイプコレクターやリペアラ―の中にはこの方法を熱心に支持する人々も多い。今回shuzed氏の果敢なチャレンジによってその概要があきらかになった。以下のレビューは氏の筆によるものである。shuzed氏には貴重な情報と詳細なレビューを寄稿していただき、深く感謝いたします。(oldbriars)

最重要注意事項

この手法はアクリル製マウスピースのパイプには使用できません。アクリルは高温のエタノールに触れると溶解します。 この記事で紹介している手法はバルカナイトステムに関するものなので、他の素材(角材、象牙、琥珀、ベークライト、アンブロナイト、セルロイド)に対する適用は慎重に行なってください。バルカナイト以外の素材に適用する場合は事前にテストを行なうことを強くお薦めいたします。

注意事項

レトルトにアルコールを入れて加熱すると、しばしば急激な沸騰により、勢いよくアルコールが噴出することがあります。火傷や火災の原因となるので、慣れないうちは加熱は慎重に行ってください。また市販の実験用の沸騰石や、割り箸の小片などを加熱前よりレトルト内に入れておくとこの突沸現象をある程度抑制することができます。

参考 URL

今回のキット購入先

* PIPE CLEANING RETORT (随時オークションが終了するのでアンカ先は ebay での検索結果)

元々私が興味を持ったサイト等

* Real good pipe cleaning

* Pipe Restoration

* Pipe Retort vs. Salt/Alcohol

* Chicago Pipe Show - Retort

今回用意した物

* Sasieni Four Dot "Derwent"

n の後でクロスする Fishtail Logo に小さなライトブルーの four dot で、マウスピース下部には PAT.No****428 (恐らく1513428) と薄ら残る一品。Briar Chambers にて 1926-27 頃の一品としてオリジナルハードケース付きで元々 $500 だったのがセールで $300 になっていたものを、不明な情熱に駆られ、衝動買い。ebay にリストされていればも少し値は張ッていただろう、とみなし貯金。

全体、特にボウルトップの状態から非常に愛されてきた一品だと安易に判るが、前オーナーは煙道の清掃には興味が無かったのか、堆積した汚れがモーティースからそれこそリップのフレア開口部迄ギッシりで、吸い口はまるで P-Lip や古い古いアンバーに良く見られる丸穴の様だった。A/R の前に A/S を二回、マウスピースはエタノール一夜漬け→流水洗浄→ O メソッド、と処理したが、エタノールを浸したモールを通すとどうやっても汚れが付いており、また粗方アルコールが乾いても若干臭いがするので、泣きそうになっていた。

初回実験段階にこの様な物件を使うと罰が当るとも思ったが、だからコソ慎重になれるかも、と意味のワカらない博打に出てみた。結果や如何に。

* パイプクリーニングレトルト

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一般的なネイルタンパーと比較。結構小さい。詳しい内容は後述の用語解説欄にて。

* アルコール

推奨アルコールは用語解説の通り様々だが、今回は消毒用エタノールを使用した、ト云うかコレしか手元に無い。

* ピペット

アルコールをレトルト内へ注ぐのに使用。園芸家なら液肥や農薬の希釈用に必ず一本は持っているハズ。ホームセンター等のガーデニングコーナーによくある 10cc のモノを使用した。

* 市販のロウソク

取説に火元の指示は色々あったが、取り急ぎコレしか無かったので。御家庭にて御用意頂ける至って普通のやや大きめのロウソク。今回は赤い着色のあるものしかなかったが、スス等の問題故、同じロウソクでするなら、普通に白い方がやや望ましいかも。

* 水場

いざト云う時の為に今回は洗い場シンク横で行なった。諸般の事情で台所に居座れない場合は風呂場でするか、それも駄目ならせめてバケツか風呂桶に水を張ってスタンバイしておくか。多分用事は無いにせよ、もしもの時の責任の所在が自分自身だけならまだしも、愛するパイプに迄及んでしまい今後のコレクションに影響してしまう事を考えれば、これぐらい当然。

手順

以下パイプクリーニングレトルト同封の取説の意訳を元に私が踏んだ手順を並べる。

1. 当然の事だが、吸い口からパイプボウルにかけて煙道にスムーズに空気が流れる状態である事を確認する。途中に何か異物が詰まっていたり、モーティースからボウルにかけてカーボンの堆積が酷い場合は、ロケットリーマのスパイラルバーやその他の治具で気道を確保しておく必要がある。またパイプボウル内に煙草等が堆積している場合は、綺麗に取り除いておく。パイプボウルから剥離されアルコールと一緒にレトルトボウルに戻る際に固形物を煙道に詰まらせたりしない様可能な限り取り除く事。今回は S/A メソッドを二回も掛けて見た目はツルっツルなのでその心配は無かった。

2. コットンをパイプボウルに詰める。取説原文には number three size とあるが、これは大凡市販のマシュマロ大のサイズと同等だろう。詰める、と述べたが、差し込む、の方が適切で、決して押し込んではいけない。これは、モーティース内部だけでなくパイプボウル下部もフラッシングする為。下から約 5mm から 1cm 程度隙間がある状態が望ましい。

3. レトルトにアルコールをレトルトボウル 3/4 程度注入する。厳密に計った訳では無いが、このパイプクリーニングレトルトのボウルには、大凡 5cc が適量の様だ。レトルト開口部先端にはゴムチューブが接着されているので、ピペット等先端の細いスポイト状のもので注ぎ入れる方が溢れたり漏れたりせず安全だろう。

4. ゴムチューブにステムを可能な限り奥迄しっかりと装着する。空気等を残さず追い出し、ステムに密着した状態であるのが望ましい。明るい家庭計画に賢しい諸兄なら馴れたモノだ。

5. 火元を点火し、レトルト全体を約四五度上に傾けた状態で火に近づけ、加熱する。数分もすれば、ゴポゴポとまるでサイフォン式でコーヒーを煎れている様な音がしだし、暫くすると熱せられたアルコールがオッス連呼宜しく勢い良くパイプボウルに向けて噴射し始め、フラッシング開始。この時レトルト本体は人差指の上に乗せて安定させるか、温度に気を付けながら指でそっと挟んでおく。

6. 液化状態のアルコールが大方気化する迄ゆっくりと沸騰させ、粗方レトルトボウルからパイプボウルへと噴き出たら、火元から離し、全体が自然冷却するのを待つ。暫くすると、腹ン中がパンパンだぜ、と、レトルト内部の樋を通って汚れを含んだまっ茶色のアルコールが液化され、レトルトボウルへとどんどん戻ってくる。粗方戻ってきたら再度加熱し気化させ、フラッシングを続ける。但し、高温になったアルコールがパイプ全体を熱っしてしまい、ステムやパイプボウルを痛めてしまう恐れがあるので、四〜五回程度に抑える。上手くフラッシング出来ない場合は、レトルト本体を水平に保ち、始めはパイプをやや下に傾むけた状態でレトルトボウルを熱し、アルコール分がボウル内部に到達したら上に傾むけ液化アルコールをレトルトボウルに戻す、ト云う様な手順でも同様の効果は得られる。

7. 途中、必要に応じてコットンは入れ替える。実際三度目のフラッシングの頃にはコットンにも剥離された汚れがかなり定着するので、5cc のアルコールにつきパイプの汚れの状態によっては二個から三個は必要かもしれない。取説にはアルコールも交換する、とあり、確かに初回から数回のフラッシングで既に汚れを随分と含んでしまってそれ以上の効果には期待出来ない状態になり、また気化したアルコールの一部はコットンを擦り拔けてパイプボウルトップから蒸発してしまい、五回目頃にはギトギトした茶色のアルコールがほんの少し残る程度になってしまうが、パイプ本体は冷め難い為、あまり合間を置かずに繰り返すのはお勧め出来ない。

8. チューブを外し、レトルト内部に残っているアルコールを捨て、モールで煙道を清掃し乾燥させる。この時、副産物的効果として、気化したアルコールを運んだコットンが程善く温かく湿っているので、ボウルトップにタールが堆積している場合は、これで拭ってやり、またパイプボウル内部も S/A 同様カーボンが柔らかくなっているので、削る予定があれば同時にすると良いだろう。但し、前出の通りパイプ自体は温まっているので、マウスピースの取り外しはしない。

9. この手順を、パイプ本体がある程度冷めるのを待って、何度か繰り返す。今回は小一時間のインターバルで三度やってみたが、三度目最後には数回のフラッシングでも薄茶色のアルコールしか残らない状態に迄なった。火の後始末も忘れずに。

 

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↑ 2/3 程消毒用エタノールを注入したところ。

 

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↑ マウスピースにしっかり嵌め込んだところ。もう少し奥までいけそうだが、 抜くときに面倒なので今回はこの程度に。

 

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↑ 蝋燭のススに懲りたので、ホームセンターで安いガスバーナーを買ってきて、張 り切って作業に入ったところの図。ちなみにこのガスバーナー、思ったより火力が強く、近付け過ぎるとほんの数秒で沸騰して、レトルトボウルに戻る間もなくパイプボ ウルから蒸発してしまいまうので、最小の火力でかなり遠くから加熱しないと駄 目だった。

 

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↑ 一発目のオッス後の再液化したアルコール。A/R 前に S/A 一回やって、リー マで結構カーボンを削っておいたあとでもこの色。

 

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↑ 三発程フラッシングした後、コットンを少し抜いたところ。ごっつい汚れである。 コットンは未だやや液化したアルコールで湿っているので、この隙にトップを軽 く拭ってやると、堆積したタールがすっととれる(ステインの色落ちもややあ るので要注意)。

 

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↑ 五発のフラッシング直後、コットンを抜いたパイプボウル。元オーナの shell-freak さん曰く一度も使わずレストアもせず、との事だったので、恐らく氏以前のオー ナのリーミングにより傷ついたラウンディングの痕がはっきり判る。下部は 未だフラッシングで戻りそこねて液化したアルコールが残っているので、この 隙に浮き出たタールやカーボンをテッシュかペーパータオルで拭ってやる。

 

結果

ある程度乾いてから(約半日後)、再度エタノールを浸したモールを通してみたが、思っていた以上に堆積していた不純物は相当剥離出来た様で、引き抜いたモールには、下ろしたてのパイプの様に、何の汚れも付着していなかった。マウスピースを外して臭いも確認したが、S/A メソッドをかけた後も僅かに残っていた嫌な臭いもまったくしなくなった。また副産物として、何故か A/R 以前と以降では約 1g 程パイプが軽くなっていた。リーマーでは削り難かったパイプボウル底部の余分なカーボンや、煙道内に残る余分な体積物が除去されたからだろうか。主観に満ちてはいるが、結果としては、大成功と云えるだろう。

さて何で最初の一服をしてやろうか、と色々と考えてみたが、もしも違いがあるのだとすれば普段良く喫う銘柄の方がその違いに気付き易い、ト云う助言 (thanks to shell freak!) から、Old Gowrie を普段通りガチムチに詰め込んで火を入れる。比較対象として、S/A メソッドを一度だけかけた、これより少し前 (1921-22?) と思われる、タウンネーム無しの sasieni と比べてみたが、芳香の立ち具合が素晴しくクリアで、エッジーな部分はハッキりと、猶且まろやかな旨味もさらに柔和に、そして度々訪れる雑味の中を模索する必要無しに、しっとりとした甘味が常に根底にしっかりと存在感としてあって、どうしたものか、と笑ってしまった。元々そんなに考えなくても旨い煙草なのだが、旨い煙草がさらに旨くなった事で、本末転倒かもしれないが、パイプ本体の存在自身を忘れてしまう程だ。まるで火元から口元にかけて何も無い様な不思議な感覚が楽しめた。何人のオーナを渡ってきたのかわからないが、A/R 前の外側は丁寧に扱われているのに内側に対してはあまりにも無頓着と云える状態が、今になって、この「良い状態」が続く限り、確かに特に何かしようとは考えないだろうな、と妙に納得してしまった。

道具さえ揃える事が出来れば作業自体は想像していたよりも随分と簡単であった。これ程簡単なら、今後は中古新古新品に限らず状態を見て気軽に試してみる事にしよう。勿論不純物の除去と除菌がメインだとして、しかし目に見えたり手で触ったりして判る変化には若干乏しいワケだが、(レポートとしては失格だろうが)あの、ブゴボッ、ゴボッ、ガゴッ、ト云う音だけでも、もの凄く綺麗になっていっていると感じるワケで、この副産物的プラセボ効果から、これ程の効果が得られるのであれば、これはもうむしろキュアリング、と呼んでしまっていいのではないだろうか、とすら思う。

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↑ この後もう一回 A/R を掛け、しっかり乾燥させた状態。木肌モロ見え。

 

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↑ちなみに同じ日に A/R を掛けた、さぁ皆さんご一緒に、
  _  ∩
( ゜∀゜)彡 アッシュフォード!アッシュフォード!
 ⊂彡
のボウル底。元々残っていたカーボンは薄かったのだが、ココまでハッキ リとボウル底が鮮明にクッキリとでると、もはや新品同様。今丁度 Gawith Hoggarth の scotch flake で一服しながら書いているが、マジで旨いで す。<知らんがな

 

今後の課題

結果としては大満足なワケだがしかし勿論今後の課題ト云うのはある。まず火元だが、男は度胸! 何でもためしてみるものさ、と取り敢えず近くにあったローソクを使ってみたものの、火力は満足だったのだがロウソク自体がクリスマスの飾り用の赤い着色のあるもので、そのせいかレトルトボウル外部に付着するススが酷く、冷却され液化して戻ってくるアルコールの色を確かめるのに苦労した。かなり弱い熱源でも十分である事がわかったので、今後は何かもっとスス等不純物の出難いアルコールランプ、トーチ、バーナ、等色々試して使ってみようと思っている。

また、今回の物件は除菌及び堆積する不純物の除去が主だったワケだが、取説に拠ると、もしも臭い汚れともに酷い場合は、アルコール分に冬緑油(サルチル酸メチル)を使うト云うアドヴァイスもあるワケだが、このサルチル酸メチル、詳細は用語解説を見て頂くとして、トに角、国内では入手困難。で、この困難な状況がまたコレクターの心の隙間を擽るワケで。米国とは違う入手方法模索するか、若しくは、何か同じ効果の狙える別の物を探すのも、今後の課題の一つである。

更には、今回は米国から 2 セット入手したので、暫くは破損紛失の心配は無いだろうが、それでも、いざト云う時の為、また、同じ様に A/R を試してみたいがワザワザ ebay から BIN で入手するのは面倒だ、ト云う方もおらあれるかもしれないので、国内で入手可能な品物だけで必要な道具を揃える事が出来るかを模索するのも、課題の一つだろう。現況として、ざっと見ただけだが、市販の物で使えそうなものはどれも皆本格的過ぎて、しかも A/R だけに利用するには大き過ぎるのが問題だ。米国にあるものよりも日本国内にあるものの方が大きい、ト云うアイロニックな現状を打破すべく、今後も目を凝らし工夫を凝らし、探して行きたい。

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↑ S/A、A/R、O メソッド、シェラック、ついでにハルシオンワックスのフルコースでピカピカにしたDunhill Shellbriar R。今夜の一服が待ち遠しい。

 

 

 

文責:shu

 

 

 

 

(※1)shuzed氏はガチムチ・パイプスモーカーとして著名な人物。好きな言葉は「イサキは?イサキは釣れたの?」

* レトルト [retort]

レトルトカレー、レトルトパック、のレトルト。「お手軽」なイメージを持つレトルトと云う言葉だが、A/R においては「蒸留器」の意味。が、道具さえ揃えれば本当にお手軽なので別にどちらでも良い。

* パイプクリーニングレトルト [PIPE CLEANING RETORT]

今回、二セット(アルコール抜き)で $30.00+S/H$7.00 で入手したキット。通常 ebay にて BIN $18.00 で米国発送のみで売られており、その収益はニューヨーク州の NPO S.U.N.A への募金として扱われる。日米に限らず良心的なヒューメインソサエティーは資金難の様なので、自分の楽しみがどこかのワンコかニャンコの世話代になっている、と思うと、ちっとは諸々の罪悪感も救われる、かも。

キットは以下の通りの至ってシンプルな内容。しかし、恐らく国内で類する一式を揃えるのは困難かつ高価になると思われる。また米国発送版は下記の他にお試し用アルコールも付いてくると聞くが、可燃物故当然 MSDS の提出から始まる危険品輸送のマッドネスの類にハマるのは目に見えていたので、注文時に最初から断わった。

o 取扱説明書
私がウダウダ書いているのよりもヨッポどスッキりとした説明書。

o レトルト
アルファベットの小文字の b の様になシェイプのガラス管とその他の部品で構成される全長一〇センチ程度の試験管。内部に、ボウル部へ落ちる手前に汚れを含んで冷却され液化したアルコールが伝り戻り易い様、細い樋を持つ。本体中部外周は厚手のアクリル (?)で保護されているので、フラッシング中持っても熱く無い。開口部には耐熱性ゴムチューブが接着されている。ちなみにこのチューブは寸胴ではなく、本体からマウスピース側に向かってややハの字に広がっているチューブで、奥迄しっかりと嵌め込んでやれば、かなりタイトにフィットするので、気化したアルコールが漏れる心配は無い。

o コットン
国内ドラッグストアに流通している表面が加工された所謂コットンパフの様な平たい物でなく、丸い形状のママのコットンが一五個程。一度の A/R で二〜三個使用するとして、約五回分。多い日も安心

o モール
通常のと所謂チクチクモールが約三〇本づつ。たかがモールさりとてモールされど国内での流通価格はアホらしい我々にとっては、大変有り難い。形状はテーパーなので、太い穴でも細い穴でも安心。

* アルコール [bracer]

取説には 91% 程度の消毒用エタノール (rubbing alcohol) が推奨されているが、他の A/R について言及されているサイトに依ってはイソプロパノール又はイロプロピルアルコール (isopropanol or isopropyl alcohol) の方が効果が得られると述べられている場合もある。また取説には、さらに喫味に柔らかさを求める場合には冬緑油を、とあり、またメールに拠る追加情報として、状況を見て元の状態が酷い場合にのみ使うべきだ、ともある。以下登場するアルコール分について若干詳細を付け加える。

o 消毒用エタノール (rubbing alcohol)
S/A でご愛用の御仁も多いのではないだろうか、ドラッグストア等で手軽に安価で入手できる、S/A、A/R だけでなく、再ワックス前の剥離清掃から普段の煙道掃除迄、何にでも使え、猶且身の回りに置いておいても誰からも怪しまれない、優れた万能用具の一つ。ちなみに無水エタノールとは水分の含有量が違うだけだが、殺菌力はむしろ無水エタノールよりも強いので、(シェラックニス作り等で)水分を気にしないのであれば、こちらで十分だろう。ちなみのちなみに A/R での使用時にパイプボウルからある程度蒸発するので蒸気の吸引にはくれぐれも注意されたい。ちなみのちなみのちなみに、概ねイソプロパノールよりも高価なのは、(呑もうと思えば呑める分)酒税がかかっているからだそうだ。呑みませんが。

o 冬緑油、又はサルチル酸メチル (wintergreen rubbing alcohol or Methyl Salicylate)
特に臭いにおいて状態が酷い場合に使用が推奨されているアルコールで、サルチル酸メチル自体はドクターペッパーやコーラ等の清涼飲料水にも使用されている。しかし、ざっと調べた処、国内入手可能な物は概ね植物(ヒメコウジ等)から精油されたアロマオイル等でウォルグリーン等米国内のドラッグストアで安易に入手出来る類の生成済製品は見当らず、国内では寧ろサロンパスに代表される筋肉消炎用湿布薬の状態でしか市場に出回っていない。主成分としては 70% のイソプロパノールに冬緑油なので、どうしても、ト云う場合には家庭での生成も可能だが、イソプロパノールの毒性や固定観念として土着してしまっている湿布臭から、あまりお勧めは出来ない。

o イソプロパノール、又は、消毒用イソプロピルアルコール (isopropanol or isopropyl alcohol)
一説には消毒用エタノールよりも A/R に向いている、とされるアルコール。エタノールよりも安価だがそれは効果云々よりも寧ろエタノールの原価に酒税上乗せされているだけで、イソプロパノールの方が人体に対する毒性は強く、その割に殺菌能力はほぼ同じで、しかしその毒性は吸引による場合ほぼ二倍とも云われるので、気化したものがボウルトップから蒸発する事も考慮して、A/R には使わない方が良いだろう。国内入手困難な冬緑油の精製には有用な様だが、やはりその毒性から、あまり安易に使用しない方が良いと思われる。折角調べたので書いてみたまで、と思って頂きたい。ご利用は計画的に。

今回は消毒用エタノールを使用したが、上記の通り冬緑油の入手が困難な為、機会を見て、70% のイソプロパノールにアロマセラピー等に使われる冬緑油の原液を混ぜた物を実験的に使ってみよう、とも思う。

* 火元 [heat sources]

適切な熱源として取説には、ブタン又はプロパントーチ、アルコールランプ、ないし蜂蜜蝋燭 (butane mini torch, propane self igniting tourch, alcohol lamp, natural bees wax candle) が挙げられている。今回流用した市販のロウソクはトに角ススが酷かったし、ススの少ないであろう蜂蜜蝋燭では割高になるので、お勧めは出来ない。A/R に限って云えば火力は然程必要も無いので、コンロ等ではやや無駄且危険なので、流用性も考えて、アルコールランプ又はトーチを使うのが適切と思われる。

* フラッシング

気化したアルコールが煙道を通りパイプボウル内部に到達し、汚れを剥離して、冷却されレトルトボウルに戻る一連の動作に対して、適当な日本語が思い浮かばなかったので、取り敢えずフラッシングと呼ぶ事にした。したの。早い者勝ち。通常は配管等の清掃に使われる。また、パイプクリーニングレトルトの取説では一連の動作は rocked back and forth と表現されているので、この「フラッシング」ト云う呼名は海外の A/R 愛好家には通じないと思われる。