Dunhill's Shell Briar LB/7 Large Billiard Double Patent(1929)

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description:

ビンテージ・パイプメーカーが過去に作り出した無数のシェイプの中で、最も有名で最もコレクティブルなパイプシェイプをひとつ挙げろと言われたなら、ほとんどのコレクターがこのDunhill LBの名を挙げることだろう。LBという名はAlfred Dunhillが使用していたLetter Shapeの一つであり、他のアルファベット数文字で表されるLetter Shapeと同じく、何らかの短縮形としての意味を持っていたとは考えにくい。だが偶然にもLBはLarge Billiardの頭文字となっていたため、他のLetter Shapeよりも記憶に残りやすく、ラージ・ビリヤードの代表的アイコンとしての側面が強調される結果となった。

現代でも多くのパイプ作家がコピーしたり、思い思いの独自バージョンを製作しているのみならず、他のメーカーのヘビーシャンク・ビリヤードを「〜のLB」と呼ぶことすらある。(※1)単一のシェイプであることを超え、もはや一つのジャンルであると言っていい。海外・国内を問わず専門に集めるコレクターが多く存在するほど人気のあるシェイプである。

このパイプはDouble Patentが刻印された1929年製Shell Briar。20年代特有のクラッギーなブラストを備え、LBの最大の特徴であるマッシヴなボリュームで構成された一本である。

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Alfred Dunhill quaint shape "LB" shape execution :↑

LBは単なる大型のビリヤードではない。ややバレル(樽)状を帯びたマッシヴなボウルに、極太のシャンクを備えたいわゆるヘビーシャンク・ビリヤードである。6インチ近いその全長は登場当時の1910年代ではレギュラー・シェイプとしては破格の巨大シェイプ(※2)であり、その大きさは後年、大振りなパイプを好むアメリカのヴィンテージ・パイプシーンで大いに歓迎されることとなった。

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Sandblast texture of 1920s Shell Briar:↑

ディテイルドで、見る角度によってさまざまに表情を変化させるキャラクターに満ちたサンドブラスト・テクスチャ。ファーサイドのファン・グレイン(もしくはスパイダー・グレイン)は圧巻である。

 

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Engineering & Details of pre-war Shell Briar:↑

このサンプルにはINNER TUBEは付属していなかったが、チューブの挿入を前提とした大容量のシャンク内煙道は大きく開口されたリップスロットと併せて快適なエアフローを提供してくれる。ビットの造作も1920年代前半のやや楕円がきついものと異なり、薄くフラットなもの。

 

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Nomenclature & Stamping:↑

英国国内向けDouble Patentを含む刻印群。ボウルボトムのセリフ(ヒゲ付き)書体7はインナーチューブサイズナンバー。英国国内向けのため、MADE IN ENGLANDのP.O.Sは存在しない。Double Patentの内訳は、PAT. N° 119708/17(サンドブラストの特許番号)と116989/17(フランジ付きINNER TUBEの特許番号)。ホワイトスポットは象牙製のややクリーム色がかった口径の小さなもの。ステム裏にはうっすらとREGD No 654638の痕跡を見ることができる。

1930年製Shell Briar Oと同じくこのパイプにはシェイプナンバーが刻印されていない。初期(おそらく1930年代初頭まで)の英国国内で販売されたShell Briarには、シェイプナンバーがオミットされた個体が非常に多い。これは激しいブラストによってシェイプの印象が変わり、顧客からクレームがつくのを避けた結果であるという。反対に、同時期の米国向けPatentを持つShell Briarにはシェイプナンバーが刻印されていることが多い。

昨年(2009年)惜しくも逝去したダンヒル・コレクターJohn Loring氏の研究によると、初期のShell Briar LBにはニ通りのシェイプの傾向があるという。ひとつはこのサンプルのようにマッシブなファットタイプLB。もう一つはボウルもシャンクもスレンダーで、ややシェイプ482に似た形状をしたナロータイプLB。前者にはインナーチューブナンバー8が、後者にはナンバー7が使用されることが多いという。このサンプルは例外的に、ファットタイプながらインナーチューブナンバー7が使用されている。尚、ナロータイプLBのサンプルはvx氏のブログ"Too fast to DIE, Too young to... PIPESMOKING!!"で見ることができる。こちらはLoring氏の研究通り、ナロータイプ+チューブナンバー7の個体である。

 

 

 

 

shape: #LB large billiard
stem: handcut vulcanite
junction: normal push tenon
color: reddish highlight sandblasted
ornament:none
length: 150mm
height: 49mm
chamber dia : 21mm
chamber depth: 42mm
weight: 58g

nomenclature:
7 (serif)
DUNHILL'S "SHELL BRIAR"
PAT. Nos 119708/17&116989/17 9
(9 underlined)

REGD No(faded)
654638(faded)
bottom side of the stem

ivory white dot on the stem

note:
・リップボタン磨耗

(※1)Comoyのシェイプ342、SasieniのBuckinghamなどはそれぞれ 「ComoyのLB」「SasieniのLB」と呼ばれることもある。

(※2)John Loring氏のコレクションの中には1917年製のBruyere LBを確認することができる。Alfred Dunhillのファースト・ディケイドで既にこのシェイプは完成していたと見るべきだろう。