Dunhill Shellbriar 480 Cherrywood Patent (1941)

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description:

シェイプ475 "Friendly"に代表されるAlfred DunhillのCherrywoodシェイプだが、あまり知られてはいないバリエーションが他にも存在する。そのイマジネーションを得たフランス製チェリーウッド(桜材)パイプにより近い、丸底ボウルを持つシェイプ474、シェイプ479、そしてこのシェイプ480がそれだ。

紹介時より現在に至るまでポピュラーなシェイプとなっている475とは対照的に、第二次大戦終戦を待たずして消え去ったと思われるシェイプだが、理由は想像するに難くない。桜材パイプをモチーフとしたシェイプの面白さだけでなく、フルフラット・ボトムを持ち素晴らしいユーザビリティを誇る475とは異なり、この480の丸底はシェイプのアドバンテージを生かしきれていないと判断されたのであろう。だがそれだけにCherrywoodというシェイプの原初のアイデアを現在までよく伝えているパイプとなっている。

このパイプはdate codeを欠いているために年代測定が少々困難なパイプでるが、date codeなしのPATENT No 1341418/20のパイプは1941年製か1943年製に同定できるらしいので、それに倣うことにする。

戦前期のシックなShell Briarのアピアランスとその最上級のスモーキングクオリティ(※1)に加え、レアなシェイプを現在に伝える素晴らしい一本。状態も極上であるが、スムースリムに刻まれたノックマークだけが非常に惜しまれる。

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Alfred Dunhill 480 shape execution :↑

パイプ自体の持つ迫力にも関わらず、かなり小型のシェイプ#480。そのコンストラクションに幻惑されるが、スレンダーなシャンク&マウスピースといい、ベント角度といいディメンションとしてはオーセンティックなベントシェイプに近い。独特の丸底ボウルのためにスタンドアップ・シェイプとしてのアドバンテージこそないが、グループ4に匹敵するチャンバー容量、そしてシリンドリカル・ボウルの安定したハンドフィール、ピンチ・スタイルで保持したときにしっくりくる丸底と、安置時以外での使い勝手はオーセンティックなベントを上回る。

474〜480の一連のシェイプは、おそらく1930年代初期に考案されたものではないか(※2)と想像できる。しばしば混同されることが多いが、CherrywoodはPokerとは起源も登場年代も異なっている(Pokerの登場年代は19世紀後期)。Cherrywood=Bent Pokerという初歩的な誤解もよく見られるが、Pokerとはボウルボトムから伸びるシャンクを持つシェイプ、Cherrywoodはボウル中部からシャンクが伸びるシェイプを謂う。ベント云々はこの二つのシェイプの違いにはなんの関係もない。したがってStraight Poker(Dunhill #90など)、Bent Poker(Sasieni Canterberyなど)、Straight Cherrywood(Dunhill #474など)、Bent Cherrywood(Dunhill 475など)のそれぞれのシェイプが存在することになる。

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Briar texture of Bruyère:↑

非常にディテイルドで有機的な戦前期Shell Briarのサンドブラスト・テクスチャ。リムに刻まれたノックマーク以外はほぼパーフェクトなコンディションである。オールド・カラーのステインはスムース面でBruyereと同じヒューを見せるところに注目。

 

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Engineering & Details of Bruyère:↑

(上)インナーチューブが挿入されるために一段太く開口したテノンを持つジャンクション部。

(下)マウスピースは20年代のかなり断面が丸いタイプより、一層の進化を見せている。薄くて快適なビット部分のアップ。

 

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Nomenclature & Stamping:↑

(上)ホワイトドットは20年代のものよりかなり大きい。マテリアルは象牙ではないと思われるが、やや緑味を帯びたペイル・ホワイトの素材である。マウスピースと同様に磨き上げると美しく光沢を放つ。

(下)Alfred Dunhillといえどもdate codeが存在しないパイプではdatingに少々の困難を伴う。クリスプなパテント・ナンバーの刻印。シェイプナンバーに付随するスラッシュ+ナンバー(/27)インナーチューブのサイズナンバーである。

 

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compare with large billiard:↑

60年代の#127との比較。驚くほどスレンダーでコンパクトなパイプであることがよくわかる。

 

 

 

shape: 480 Cherrywood
stem: Vulcanite
junction: normal push tenon
color: dark plum
ornament:none
length:135mm
height: 42mm
chamber dia : 20mm
chamber depth: 35mm
weight: 29g

nomenclature:
480/27

DUNHILL SHELL MADE IN ENGLAND
PATENT No 1341418/20

white dot on the stem

note:
・リムに軽度のノックマーク多数

(※1)ShellBriar特有の、サトウキビを思わせるような甘さを無際限に染み出させる極上の喫味である。この喫味に匹敵するパイプはモダンパイプには発見することは不可能だろう。

(※2)1931-40 The Friendly: Further new shapes were introduced, including the"CherryWood" style, made in bruyere with its much longer lasting characteristics than the original made from Mousier Wood grown on the Continent. This attractiveshape proved an immediate success. (Richard Dunhillによる、ダンヒル90周年記念パイプセットの説明より。本文中で触れたように、一連のCherrywood系シェイプはこの年代に発表されたと思われる。)