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1920年代最初期からのサンプルは、後年"Billiard Master"の名を欲しいままにしたAlfred Dunhill Ltdに相応しい、非常にシンプルなスタイリングのビリヤード34番である。このパイプは非常によい状態で保存されていたもので、僅かなレストアを経た後にunsmokedといっても通るような極上の状態となった。"Bruyere"ダークプラム・ステインは黒と間違えんばかりに濃く、刻印類はまるで昨日Duke Streetのショップを後にしたかのように鮮明で、Patent No.つきのINNER TUBEを備え、バフアウトされている個体がほとんどのステム裏のRegistered Noさえも備えている。
1907年のパイプ販売開始からほぼ10年間、Alfred Dunhill Ltdは主にNathan'sなどのパイプメーカーや、その他BBB、GBD、Charatan's、Comoy'sなどのブリティッシュ・プレミアムパイプメーカー、そして時にはサンクロードのメーカーから削り出し済みのスタンメルを購入し、Duke Streetの店舗の隣の二階にある工房でステムフィットとフィニッシュが行われていた。1920年になるとサンクロードよりボウルターニング用の機材を購入するとともに、新たにパンクラス・ロードにボウルターニングセクションが開設され、ここで初めてAlfred Dunhillは自らのボウルを自らの手で削りだすようになる。このパイプはDunhillがターニングを始めた直後に作られたパイプである。往時のAlfred Dunhillのパイプメイキングの実際を現在に明確に伝える、ヒストリックといっても過言ではない1本。
後年グループ2に分類される、スモールサイズ・ビリヤードのシェイプ34。全長5インチほどの、まだ小型サイズのパイプがごくごく一般的だった時代の標準サイズであり、この時代にはかなり頻繁に見かけられるシェイプである。兄弟シェイプ35よりもボウルエクスキュージョンが直線的で、非常にシックでクラシックな印象を与える。ステムも後年のDunhillに見られるような直線主体の印象はまだ表れてはおらず、ややふっくらとした曲線を描くのが特徴的である。
限りなくオリジナルに近い、戦前のパイプに特有な、"オールドカラー"と呼ばれる濃いダークプラムの"Bruyere"フィニッシュ。購入当時はグレインパターンが不可視なほど色が濃かったのがよくわかるショットである。後年、ROOTグレードが導入されるまで、Alfred DunhillはSasieniやBarlingと同じくグレインの美しさで知られたメーカーではなかったこともこのサンプルから容易に理解できるだろう。
(上)エンジニアリングは素晴らしいの一言。セミオリフィック・ボタンのリップの高さに注目。
(中)"Comfy"リップ以前の、Alfred Dunhillのセミオリフィック・ボタン。エアフローは秀逸だが、リップ部が丸みを帯び、ボタン部も高さが厚く幅が狭いのであまり快適とは言いにくい。
(下)非の打ち所が無いコンセントリシティとエンジニアリング。Dunhillのパイプにとってコンセントリシティは、INNER TUBEが挿入される都合上絶対に必須な条件でもあった。これだけの小型パイプで、これだけの精度を出しているのにはやはり驚嘆せざるを得ない。1917年にJoel SasieniがDunhillから離別した後も、Alfred Dunhillのクラフトマンは己が技術を研鑽し続けていたことがよくわかるショットである。
ファクトリー・クリスプなスタンプ類のアップ。この刻印がDunhillの工房で打たれてから87年が経過しているが、まさに昨日刻印されたといっても通るような鮮明さである。
(上左)P.O.S刻印の右にはDate Codeは見られない。メーカー刻印(DUNHILL LONDON)の刻印からこのパイプの製作年代は1920年11月以降〜1922年まであり得るが、このDate Codeの不在により、さらに1920年11月〜1921年前中半にまでナローダウンすることができる。Patent NoはPATENTED MARCH・9・15。この刻印は1915年から1923年の間に使用されたものであり、メーカー刻印の指す年代、そしてDate Code不在の指す年代と矛盾しない。
(下左)短縮フィニッシュコードはAに小さなoのピリオドが付随したもの。
(下中)メーカーマーク(DUNHILL LONDON)は、Dの文字にヒゲがついたもので、この刻印は1920年11月以降〜1922年まで使用されたもの。
(下右)登録意匠であるWhite Spotを示す、ステム裏のRegistered No 654638 ホットスタンプ。バフアウトに弱いため、このスタンプが残っている個体は非常に稀である。
INNER TUBEは以前のオーナーの手によって破棄されることが多いが、このパイプには運良く残存していた。こちらも非常に良好な状態で、中ほどに刻印されたPat.No 5861/21がはっきりと見て取れる。INNER TUBEがリップの手前10mmほどにまで深く挿入されることが良く分かるショット。
shape #34 billiard
stem: vulcanite
junction: normal
color: dark plum
ornament:none
length:132mm
height: 40mm
chamber dia: 18mm
chamber depth: 35mm
weight: 30g
nomenclature:
Ao
/
DUNHILL(D with tail)
LONDON (shorter than Dunhill)
/
MADE IN ENGLAND (no date code)
"INNER TUBE"
PATENTED MARCH・9・15
/
34
REGD No
654638
bottom side of the stem
PAT.No5861/21
on inner tube
white ivory dot on the stem
note:
・トップに小さなハンドリングマーク
・ニアミント