Alfred Dunhill Shellbriar 56 F/T Group 4 Bent Billiard (1960)

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description:

ベント(ベントビリヤード)は最もポピュラーで、最も目にする機会が多いベントパイプであるが、数多あるベントシェイプの中で一番典型的で一番完成されたベントシェイプとはどれか、という問いに答えるとき、最も有力な候補になるのがこのAlfred Dunhillのシェイプ56である。

シェイプ56、すなわちグループ4でボウルサイズ、エクステリアサイズともに申し分無く中庸なこのシェイプは、ステムのベント具合といいテーパー具合といい、シャンクの太さといいベント角度といい、重さを感じさせず、かといって軽すぎて安心感がない、といったこともなく、手と口にしっくりと馴染んで暴れることがない。Alfred Dunhillのベントには他に有名なオーバーサイズの120、ウルトラ・コレクティブなLC、56の弟分とでも言うべきグループ3の53等があるが、使い勝手という面ではこのシェイプ56に勝るものはないと断言ができる。このシェイプが生み出された1920年代以降、新たに作り出されるベントシェイプは全て、56を参考にし、そしてライバルとした、と言っても誇張ではあるまい。男性的に直線となってテーパーするステムにコンビネーションされたF/Tリップ(ストレートパイプに見られるものよりもマイルドにフレアする形)で、快適さの実現にも隙がない。

このパイプは1960年製Shellbriarの56。1960年という年は、Alfred Dunhillがマーケットを意識してそれまでの深くクラッギーなブラストを控え始め、同時にアルジェリアン・ブライヤーの入手が困難になりはじめた時期である(※1)。このパイプもクラッギーとは言いがたい浅目のブラストがかかっている(※2)が、60年代後期の非常にシャローなshellbriarよりは、依然やや荒々しいキャラクターを保っている。

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Alfred Dunhill 56 shape execution :↑

まさにベント・オブ・ベント。世にある全てのベントシェイプがリファレンスとすべき、理想的なベントシェイプがあるとすればこの56がそれであろう。ステムの優美なテーパー&カーブで相殺されてはいるが、意外にシャンクのベント角度は深く、ボウルサイズの割にはコンパクトに仕上がっているのも魅力。Dunhillの多くのシェイプに共通する、微妙にかかったフォワード・キャントとホリゾントラインと平行なトップのカットが、やはりこのシェイプにもある種の精悍さを与えている。パーツパーツは優美で洗練されてはいても、トータルでやや無骨な男性性を感じさせるのがDunhillのシェイプ・エクスキュージョンである。

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Briar texture of Shellbriar in '60s:↑

シャローではあるが、かなりのキャラクターを持ったブラストテクスチャ。細かくグロテスクなバーズアイが、アンイーブンなボウル前面のストレート面に移り変る過程はかなりドラマチックである。 手との接触面が豊かなレッドへと退色した、美しいオールドカラーもそれを盛り上げている。今回もシェラックを使用して豊かな発色と落ちつきのある光沢を実現している。

 

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Engineering:↑

(上)INNER TUBE付きのサンプルを調べると分かることだが、Alfred Dunhillのベントシェイプでは、INNER TUBEはステムがベントする個所(ステム中程)までかなり深く挿入され、チューブ自体も曲げ加工がなされる。そのため、ステムの抜き差し時のチューブのクリアランスとして、ベントシェイプのtenonは写真上のように極大のエアホール・インテイクが開口されている。INNER TUBEはこの内部にややフロートした状態で保持され、ステムがシャンク奥まで挿入されたときに初めてきっちりと固定されるようになっている。ちなみにこのエアホールはテーパーしながら徐々に煙道径にまで近づくようになっているため、チューブを外したときのエアフローにも全く問題はない。

(中)かなり大きめのファンネルが穿たれた、フィッシュテイル(F/T)・ビットのファイナル・エグゾースト。滑らかなエアフローと、快適で不安定感の無い保持を同時に実現している。

(下)非の打ち所が無いコンセントリシティとエンジニアリング。Dunhillのパイプにとってコンセントリシティは、INNER TUBEが挿入される都合上絶対に必須な条件でもあった。

 

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Stamping & Date Code:↑

スタンプ類のアップ。Date Codeは1960年を表すアンダーライン付きの0がENGLANDの右に刻印されている。0の文字はアンダーラインを除けばDのほぼ半分の大きさであることに注意。稀にこのアンダーラインが存在しない場合もあるので、50年代後半(Patentなし)〜60年代のDunhillのdatingには注意が必要。0が小さい場合はアンダーラインがなくとも60年の製造を示す。

 

 

 

shape #56 F/T bent billiard
stem: vulcanite
junction: normal
color: darkred contrast
ornament:none
length:141mm
height: 48mm
chamber dia: 19mm
chamber depth: 40mm
weight: 39g

nomenclature:
56 F/T

DUNHILL
SHELLBRIAR

MADE IN
ENGLAND 0(underlined, 0 is half size of D)

4(in a circle)
S

note:
・ボウルオーバーステイン退色
・ステムショルダーラウンディング

(※1)1960年代に入るとアルジェリアン・ブライヤーの入手が困難になってくる。しかしDunhillは1966年のカタログで、Shllbriarには依然アルジェリアン・ブライヤーを使用していると書いている(同カタログには同様にTanshellにはサルジニアン・ブライヤーを使用していると書かれている)ため、グレシアンもしくは他産地のブライヤーへのスイッチはもう少し後のことだと思われる。

(※2)1960年代のshellフィニッシュのシャロー化は、この時代にブラストのかかりやすいアルジェリアンが使用できなくなったためと言われるが、上記のように60年代後半まで、Shellbriarはアルジェリアンを使用していたことが分かっている。したがってシャロー化はこの時期に高まってきた、顧客からのイーブンでシェイプアウトの少ないブラストを望む声に答えたものではないかと想像される。