Alfred Dunhill Shellbriar K F/T Group 4 Apple (1961)

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description:

Alfred Dunhillがパイプメイキングの世界に送り出したイノベーションの中で最もブリリアントなものはといえば、"Windshield Pipe"でも、"Airstream"でも"Inner Tube"でもなく、SHELL BRIARというフィニッシュであることに異論はないであろう。サンドブラスト、即ち高温のパーティクルをブライヤ表面に高圧・高速で吹きつけ、ブライヤー内部に隠れたグレインを浮き立たせる手法は、当初Alfred Dunhillの特許でありながらも、現在世界中どのパイプメーカーのラインナップにも見ることができる。これほどまでにポピュラーになりえたイノヴェーションの価値を計ることは不可能に近い。

しかし、サンドブラスティングをコピーすること即ちSHELL BRIARをコピーすることにならないところが、このユニークな手法のユニーク足りえるゆえんである。数多のメーカーがSHELL BRIARを模倣し、そして凌駕しようとした。しかし歴史はその試みのほとんど全てが失敗にすぎなかったことを証明してしまっている。その理由はSHELL BRIARの最大の特徴はその手法にあるわけではなく、そのキャラクターにあるからだ。

このパイプは1961年製のLetter shape K。コンフォータブルなF/T(フィッシュテイル)ビットを備え、サイズはグループ4の非常にスタンダードなストレートアップルである。ソリッドなシェイプにソリッドなカラー、ソリッドなブラストテクスチャにアルジェリアン・ブライヤー(※1)による豊かな喫味。1960年代はAlfred Dunhill最後の黄金期と見なされているが、当時のAlfred Dunhillがイギリスはロンドン、いやパイプ界全体でのハイ・スタンダードを形成していた時代のオーラがこのパイプにも分有されているのだ。

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Letter shape "K" shape execution :↑

『アーキタイパルなストレート・アップル』、このシェイプKに相応しい形容はこれだろう。そのボウルサイズ、シャンクの太さと長さ、マウスピースのテーパー、全てがアップルというシェイプの理想に限りなく近い形状である。個人的には、この上部に行くにしたがって窄まるボウルターニングには心の琴線に強く触れるものを感じる。

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Briar texture of Shellbriar in '60s:↑

ややシャローではあるが、非常にディテイルドイーブンなバーズアイが浮き出たShellbirarのサンドブラストテクスチャ。1960年代はそれ以前の20年代、30年代、40年代、50年代に比べるとややシャローなブラストが多いと言われる(※2)。このように年代によってブラストのテクスチャに固有のキャラクターがあるのこともShellbirarを一層コレクティブルにしている。

オールドカラー(※3)と呼ばれる、濃いレッドで深く染色されたステインは、使用するにつれて突起部分が黒からダークレッドブラウンに退色し、そのパイプ特有のテイストを発達させてゆく。シェラックフィニッシュによりそのアピアランスは新品同様にまで復活させてある。

 

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Engineering:↑

エンジニアリングもAlfred Dunhillの名を汚すようなものは何もない。素晴らしいコンセントリシティと細部への意識。F/T(フィッシュテイル)ビットは薄さはそれ程ではないにせよ、舌に干渉せず左右モーメントを殺して安定させる素晴らしい形状である。ホワイト・スポットのインレイの仕方なども、喫煙具に要求されるレベルを軽く凌駕してしまっている。 テノンに対するべべリングなどの工夫は見られないが、それはAlfred Dunhillのパイプは出荷時に全てInner Tubeを装着されるためである。

 

 

 

letter shape K apple
stem: vulcanite
junction: normal
color: darkred contrast
ornament:none
length:140mm
height: 40mm
chamber dia: 19mm
chamber depth: 36mm
weight: 40g

nomenclature:
K
F/T

DUNHILL
SHELLBRIAR

MADE IN
ENGLAND 1(1 same as D)

4(in a circle)
S

note:
・パーフェクトコンディション

(※1)Dunhillは自社でボウルターニングを開始して以来、カラブリアン・ブライヤーをスムースパイプ(つまり当時のBruyere)の素材としていたが、Shellbriarに関しては異なり、登場当時より一貫してアルジェリアン・ブライヤーを新しいフィニッシュプロセスのために使用していた。これはアルジェリアンが当時入手可能なブライヤーの中で最もサンドブラストの効果が顕著にでる柔らかい木質を持っていたためである。1960年代半ばよりアルジェリアンブライヤーの輸入量は減少し始め、またイタリア政府が国内のブライヤーを輸出禁止にするという措置を取ったこともあり、Dunhillはこの時期から代替のブライヤー産地を探さなければならなくなった。それが70年代より使用されるグレシアン・ブライヤーである。

(※2)Dunhillが特許を取得したパテント・プロセスにおけるサンドブラスティングは、『ダブル・ブラスト』と呼ばれる技法を当初から内包していた。その名の通りブラストを複数回にわたって繰り返し、ディープでクラッギーなテクスチャを得るのがその眼目である。そのため、1920〜50年代のshellは素晴らしく深いブラストを誇るパイプが殆どになっている。ダブルブラストは1960年中まで行なわれていたと思われ、それ以後はShellbriarのブラストの表情ははっきりと異なり、かなりシャローでシェイプアウトも少ないイーブンなブラストが多くなる。このサンプルはDunhillがダブルブラストを廃止してからの個体である。

(※3)Dunhillは1970年代半ばまで、このオールドカラーと呼ばれるダークレッドxブラックのコントラストステインをShellbriarに採用していた。それ以降はダークブルーのステインによるもっとクールなブラックに変更された。