Comoy's Extraordinaire #235 Kruger (c1930)

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description:

Comoy's Extraordinaireは1920年代、Comoy's of Londonがパイプメーカーとしてモダン・エラに突入する同時に発表され、その後形を変えながらも家族経営期が終焉を迎えるまで製作され続けたグレードである。"Extraordinaire"の意味するところはその名のごとく<規格外>であることであり、1920年代の巨大な800シリーズ、黄金期のあまたの専用オーバーサイズ・シェイプ、そしてCadoganに吸収される直前のExtraordinaire I、Extraordinaire IIに至るまでComoy's随一のオーバーサイズ・グレードとして高いコレクティビリティを誇り続けた。

ここに挙げる個体は、1920年代後半から1930年代初頭にかけて生産されたと思われるExtraordinaireであり、Comoy'sの代表的なOom Paulシェイプ、#235 "Kruger"(※1)の、それも傷ひとつない未使用品である。筆者もここまで良好な状態のこの時代のComoy'sを手にしたのは初めてであり、シャンクファーサイドに刻印された、つい昨日工場から出荷されたばかりのようにも見えるラグビーボール・シェイプ LONDON MADE P.O.Sを目にして強い感動を覚えたことを告白しておく。シェイプがかなりレア度が高い#235であることも併せて、まさにExtraoridinaire(尋常ではない)素晴らしいパイプである。

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1930s Comoy's "kruger" shape excution:↑

戦前に製作されたベントパイプはどこのメーカーに於いても、ステムベンドの角度がシャープで急激なのが特徴だが、それがこの"Kruger"シェイプでは既に異形の域に達する。あくまで硬い直線で構成された単純すぎるほどの円柱形ボウルと、エレガントでアグレッシブなベンドを見せるステム、そしてその融合媒体である複雑な曲線美で構成されたシャンク部のコンビネーションは見る者を魅了してやまない。

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Briar Texture of 1930's Comoy's Extraordinaire:↑

戦前のComoy'sは後年のレッド・コントラストではなく、この個体のようなイエロー・アンバーがベースのコントラスト・ステインを多用(※2)していた。製作当時のワックスの輝きもそのままの、そのオリジナルカラーをはっきりと確認することができる。デンマーク作家トム・エルタンはその有名なゴールデン・コントラストの着想をComoy'sのコントラスト・ステインから得たという噂だが、そんな話もこの美しい黄金の輝きを見るとむべなるかな、と思えてくる。シャープなノンベベル・リムのエッジにも注目。

 

 

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1930s Comoy's engineering & details:↑

Extraordinaireは800シリーズの登場時から他のシステム系グレード(Grand Slam Pipeなど)とは一線を画し、シンプルなエアウェイを身上としていた。フィットメントの装着を全く考慮に入れていないシンプルきわまりないイングリッシュ・テノンを備えている。このため後年に至るまでステム煙道のエアフローは(INTER STEELを備えた)他のComoy'sのエキゾチック・グレード(※3)とは異なり、例外的に良好である。ステムはセミ・オリフィックからスロッテッドに移行した直後のやや厚みのあるものだが、リップ部の処理は細密でありスロットも大きく開口されている。

 

 

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Nomenclature & stamping:↑

1930年代までのComoy'sに見られるラグビーボール LONDON MADE P.O.S。フットボールMADE IN ENGLANDと使用時期はほぼ重なると思われるが、こちらのほうがやや登場時期は早い印象がある。このレアP.O.Sをこのように鮮明な状態で目にする機会はほぼないと言っていい。シェイプナンバー235はComoy's特有のやや流れたフォントが使われている。またExtraordinaireのスタンプがアーチ状になっていることに注目。戦後にはこのグレード名部分はストレートスタンプとなる。ステムの3ピース・インレイドCはやや小ぶりなもの。

 

 

shape: #235 Oversize Kruger
stem: handcut vulcanite
junction: normal
color: yellow amber contrast
ornament:none
length:145mm(diagonal, heal to lip)
bowl height: 58mm
chamber dia: 19.5mm
chamber depth: 57mm
weight: 55g

nomenclature(near side):
COMOY'S(arched)
EXTRAORDINAIRE

nomenclature(far side):
LONDON
MADE(rugby ball stamp)

235

stem:
3-piece inlaid C logo on the stem

note:
・未使用新品

(※1)Krugerとは第二次ボーア戦争(1899-1902)をイギリスと戦ったトランスヴァール共和国の大統領ポール・クリューガー(1825-1904)に由来する。同じシェイプは一般的にはクリューガーのニックネームであったOom Paul(ポールおじさん:アフリカーンス語)と呼ばれているが、Comoy'sでは伝統的にKrugerの呼称を使用した。カタログやシェイプチャートでもこのシェイプ名が使用されている。

(※2)イエローアンバー・ベースのコントラスト・ステインは戦前の各グレード、Tradition、Royalなどで確認することができる。レッドベースのコントラスト・ステインの雄であるBlue Ribandも初期はイエローアンバー・ベースのステインだった。

(※3)黄金期のComoy'sの高級グレード、Blue Riband、London Prideはステム内部に補強用のINTER STEELを備えている。